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正解よりも最適解

出産育児一時金の増額は少子化対策として合理的なのか否か

少子化対策の一環として出産育児一時金増額を岸田総理は表明しました。

www3.nhk.or.jp

額の増加幅が大きいことから、かなり踏み込んだ前向きな対応だと政府は自信を持って打ち出しましたが、一時金が増えたからといって少子化がなんとかなるわけではないだろう?という世間の反応が多く見られます。

では、なぜこの出産育児一時金増額を政府は自信満々で打ち出したのか。
本当にこの出産育児一時金は少子化対策の一環として意味があるのかを少し調べてみました。

その結果分かった事を一言で言えば、”マイナスをゼロに近づける効果はあるけど、出産に前向きになる動機にはつながらないのでは?”ということです。

出産育児一時金について

まず出産育児一時金ですが、その存在意義や目的は、出産時の経済的負担を軽減させるためのものです。

その支給額は度々見直しが入っており、そのたびに増額傾向にあります。

出産育児一時金とは

出産育児一時金(しゅっさんいくじいちじきん)とは、健康保険法を根拠に、日本の公的医療保険制度(健康保険、共済組合、船員保険、国民健康保険)の被保険者が出産したときに支給される手当金(金銭給付)である。1994年(平成6年)の健康保険法等の改正により、それまでの「分娩費」と「育児手当金」(1961年(昭和36年)6月14日までの名称は「哺育手当金」)とを統合する形で新たに設けられた。

出産育児一時金 - Wikipedia

出産育児一時金の支給額の推移

1994年9月~ 300,000円
2006年10月~ 350,000円
2009年1月~ 380,000円
2009年10月~ 420,000円
2015年1月~ 420,000円
2022年1月~ 420,000円
2023年4月~(予定) 500,000円

出産育児一時金について - 厚生労働省

出産育児一時金の用途

出産に要する経済的負担を軽減するため、一定の金額が支給される制度。

出産育児一時金について - 厚生労働省

出産に関する費用について

出産に関する費用の経済的負担を軽減させるためのものが出産育児一時金ではありますが、では、出産費用はどの程度かかるのかについて調べてみました。

その結果分かったのが、出産費用も増加傾向にあり、出産育児一時金は出産費用にほぼ吸収されるているのが現状のようです。

出産費用

出産育児一時金について - 厚生労働省

なぜ出産費用は増額しているのか?その要因

出産育児一時金について

当初、なぜ出産費用が増額しているのか厚労省でも明確に把握しきれていないのが現状でした。

その後、改めて出産費用を様々な要因と絡めて統計を取り直した結果わかったのが、5つの要因が出産費用に強く関連しているのでは?ということです。

なかでも出産年齢平均所得が強い相関関係にあると分かったようです。(平均線の角度が、より右肩上がりになっている)

出産年齢の推移

では出産年齢はどう推移しているのかの統計を取ったものを見ると、出産年齢は確かに上昇していますが、その伸び方は緩やかなものであると感じます。

令和3年度「出生に関する統計」の概況 - 厚生労働省

平均所得の推移

平均所得をグラフにしたものを見ると、平均所得はほぼ横ばい(やや右肩下がり)です。
平均所得が出産費用に影響を与えていると考えるのは無理があるような・・・。

図表2-1-1 1世帯当たり平均総所得金額の年次推移 - 厚生労働省

出産費用に影響を与える要因を少し深掘り

出産育児一時金の用途は主に出産費用であり、その出産費用は右肩上がりで増えています。

では右肩上がりで増えている理由は何かを分析したところ、厚労省は出産年齢の増加と平均所得の増加が相関関係にあるのでは?として見ているようです。

ところが、出産年齢も平均所得もほぼ横ばいが続いているように見受けられます。

そこで、もう少し違う角度であれこれ深掘りしてみました。

出産に至らなかった件数が増えているのでは?

平均所得が横ばいなのに、出産に至っている方たちを見ると平均所得が増えているという現状から、出産に至らなかったケースは若年層に多いのでは?と思い調べてみました。

年齢階級別人工妊娠中絶件数及び実施率の推移

人工中絶に至ったケースはむしろ横ばいになっておりますし、その内訳もほぼ変わりません。

よって若年層が経済的理由で人工中絶に至るケースが多いので、その結果、出産に至る方たちの平均所得が高いという可能性は低いと考えられます。

非正規雇用の方が子供を持たない選択肢を選んでいる?

出産して生活をしていく見込みへの不安という点で、非正規雇用であるため出産ないしは結婚そのものを敬遠していることが理由として考えられるのかな?と思い調べてみました。

まず若年層における非正規雇用者。

こちらは増加傾向にあります。

加えて、非正規雇用者の男性の未婚率は高いというデータもあります。

ここから考えられるのは…

  • 非正規雇用は未婚率が高く、所得も決して多くはない。
  • 非正規雇用は若年層をはじめ増加傾向にある
  • 非正規雇用者が出産に至るケースが少ないため、必然的に出産に至る方の平均所得が上がる

という現象が起きていると考えられます。

出産育児一時金増額は少子化対策として合理的なのか

少子化対策の一環として出産育児一時金の増額は合理的なのかと考えたとき、僕はあまり意味がないと思っています。ハッキリ言えば目先の事しか見ていない付け焼刃の対策でしかないとすら思います。

 

出産費用が増加傾向にあり、それが出産に関する負担になっていてそこに至らない方が多いのでは?という見方は理解できます。

出産費用の負担を抑えるためにという主旨での出産育児一時金の存在は非常に重要だと思いますが、その出産育児一時金はほぼ出産費用で消化されます。

出産に至った方たちに多くのお金が入るようになっているわけではありませんので、出産育児一時金が出産の動機になるとは考えにくいです。

 

また、出産費用と出産育児一時金は二人三脚で増加していってます。

出産育児一時金が上がれば出産費用も上がる、もしくは、出産費用が上がったから出産育児一時金も上がるといった具合です。

なぜ出産費用が増加していく傾向にあるのかというと、晩婚化と出産に至る方の所得が増えているという2つの要因があるとわかりました。

(出産に至る方の所得が増えているから出産費用を上げようという産院側のロジックもイマイチ理解できませんが・・・)

その2つの要因を掘り下げると、本丸は非正規雇用者の増加にあるのでは?ということがわかります。

失業者や非正規雇用者の未婚率は非常に高く、若年層で非正規雇用が増加傾向にあることもわかっていますから、その結果として晩婚化と子供を持たない人の増加に繋がっているのは自然な流れだとも思います。

ここをなんとかしない限り、少子化対策は前進しないように感じます。

なので、少子化対策に本気を出すという姿勢は、非正規雇用者をどうするのかに真剣に取り組まない限り意味も効果もないと思います。

 

個人的には、非正規雇用者の方が将来が不安だから家庭を持たない、子供を持たないと考えるというのは、負担をかけたくない、迷惑をかけたくないという思いやりの表れでもあるとすら思いますので、ちゃんと支援をすることでいい家庭を築くのでは?とも思えてなりません。

まとめ

上記をまとめますと・・・

  • 出産費用は右肩上がり傾向にあるので出産育児一時金での支援は重要ではある
  • 出産育児一時金は出産費用でほぼ消える
  • 出産費用が増加する理由は晩婚化と出産に至る方の所得増加が理由
  • 晩婚化と出産に至る方の所得が増えている理由は所得が低い層が結婚と出産を避け始めているから
  • 非正規雇用者は未婚率が高いことが分かっている。そして、若年層では非正規雇用率が高まっている

このような事になります。

個人的にはそれを踏まえて次の2つの対策を考えるべきだと思います

  • 出産費用の根拠を合理的かつ明確にする
  • 非正規雇用への対応
    • 正規雇用を増やすようにする
    • 非正規雇用でも将来に不安なく生きれる社会制度の構築(ベーシックインカム等)

出産育児一時金はマイナスをゼロにするのが目的の存在ですから、出産費用が上がれば上げざるを得ないという性質のものだとも思います。

ただ、一部の産院が、少子化におびえる国は出産費用を上げれば出産育児一時金を増額してくるぞ…と見込んでいる部分も否めない気がしますし、中には出産育児一時金の増額に合わせて出産費用を値上げする産院もあると言います。

そういう少子化問題を人質にしたようなやり方を許さないためにも、出産費用の透明性を高めることが出産育児一時金の増額と合わせてやるべきことだと思います。

ただ、これは少子化対策には直結していません。

効果があるなら少子化は食い止まっています。

というのが僕の思う事です。